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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1300号 判決

被告人

松尾一郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役十月及び罰金五千円に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審並びに当審において生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人下尾栄の控訴趣意第一点について。

刑事訴訟法第五十二條に「公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによつてこれを証明することができる」と規定している趣旨は、公判期日における訴訟手続であつて公判調書に記載されているものは、該記載事項の証明に関する限り他の資料による反証を許さず、もつぱら右公判調書の記載によらなければならない、というにあるのであつて、右公判調書の記載が概括的に大綱のみを示し具体的な細部の事項を十分明らかにしていないような場合においては、右概括的記載の基本的方向に沿い、記録編綴の他の資料等により右記載の内容を補充し、もつて右細部の事項を証明することが許されているものと解すべきである、いま本件の場合について見るのに、原審第一回公判調書(第一〇丁裏)には「裁判官は(一)の書類(即ち関係人前田チトヱ外二名に対する諫早市警察署司法警察員作成に係る供述調書三通)を取調べる旨決定を宣し、……検察官は右決定に基き書類を朗読し裁判官に提出した旨記載してあるに止まり、右のような概括的記載のみによつては前田チトヱに対する供述調書につき証拠調が行われたことしか十分に証明し得ないわけであるけれども、同公判調書に引続き前田チトヱ、三浦マツ、丸山シメに対する前記司法警察員の各供述調書が順次編綴されていることと照合して考察すれば、結局右三浦マツ、丸山シメに対する各供述調書についても適法な証拠調が行われたことを証明できるものといわねばならない。もつとも右のような公判調書の記載はそれのみで証拠調の対象を明確にしていない憾があり、従つて右に関し訴訟関係人から異議の申立をなし得る余地が存したわけであるが、記録上かような異議の申立がなされた形跡も存しないから、いまだ前段説示の結論を左右するに足りない。しからば、前記丸山シメの供述調書につき証拠調が行われなかつたことを前提とし、原判決をもつて証拠調を行わない資料により事実を認定した違法がある旨主張する第一点の論旨は、その理由がない。

(註 本件は事実誤認、量刑不当により破棄自判)

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